〜神話・歴史・大自然の息吹をめぐる物語〜
第1部 神話編:暗闇から始まる命の記憶
第6回:はじまりの舞〜ホーポエが説く自然との対話〜
ALOHA! Ka Hōkūlani HULA STUDIOのMotoeです。
この世界で最初にフラを踊ったのは、いったい誰だったのでしょうか。
フラの道を歩んでいると、そんな静かな問いに出会うことがあります。
古くから語り継がれる数々の伝承。
その中でも、Kahiko(カヒコ:古典フラ)を愛する人々の胸に今も響き続けているのが、火の女神Pele(ペレ)の末の妹、Hiʻiaka(ヒイアカ:癒やしと成長の女神)と、親友Hōpoe(ホーポエ:美と感受性を宿す存在)の物語です。
【火の女神ペレの休息と、沈黙する姉妹たち】
激しい荒波を越え、ハワイ島のHalemaʻumaʻu(ハレマウマウ火口)にようやく火を宿したペレ。
長い旅と戦いの果て、静けさの中に身を置いたペレは、そっと姉妹たちに願いました。
心を鎮める、新しい踊りを見せてほしいと。
けれど、姉妹たちは雷や嵐、分厚い雲をまとい、空そのものの力を宿していました。 その場を満たしていたのは、空の力がもたらす重く激しい気配でした。
やわらかく流れる踊りの気配とは、どこか遠い響きです。 火口の縁に立ちながら、誰もその願いに応えることができません。
ただ重い静寂だけが残されていきました。
その静寂の中で、ひとり静かに立ち上がった者がいます。
ペレがその火で温め、抱き、守り抜いてきた末の妹、ヒイアカです。
彼女は澄んだ声を響かせながら、まだ誰も知らないステップを踏み始めました。
そのときに歌い踊られたものが、『Ke Haʻa Lā Puna』(ケ・ハア・ラー・プナ:プナは踊る)。
その響きは時を越えて受け継がれ、今も多くのHālau(ハーラウ:フラの教室)で大切に歌い踊り継がれています。
【親友ホーポエが受け取った自然の息吹】
ヒイアカのその美しい踊りは、神々の世界から生まれたものではありませんでした。
彼女にそれを伝えたのは、Puna(プナ:ハワイ島の地名)の森に生きるひとりの女性、ホーポエです。
ホーポエは、海辺を吹き抜けるMoani(モアニ:心地よい微風)に揺れるHala(ハラ:タコノキ科の木)の葉音に耳を澄ませていました。
静かに寄せては返す波の満ち引き。
Nānāhuki(ナーナーフキ:引き波)の気配にも、そっと心を重ねていたのです。
そのやわらかな自然の躍動を、自らの腕のしなりや足の運びでなぞっていきました。
そして、ひとつの舞が生まれていったのです。
自然の気配をそのまま映し取るようにして生まれたその踊りを、ヒイアカは最愛のホーポエから受け取ったのでした。
【「私が踊る」のではなく「自然が踊る」】
ヒイアカがペレの前で歌った詠唱には、次のような言葉が並んでいます。
Ke haʻa lā Puna i ka makani
Haʻa ka ulu hala i Keaʻau
ʻAmi i kai o Nānāhuki
――風の中で、プナの森が踊っている
ケアアウのハラの木々が風に揺れる
海辺の波の気配へと向い、ʻAmiを描く
そこには、「私が踊っている」という言葉はひとつもありません。
森が、木々が、波が、風の中で自然に踊っている。
ヒイアカはただ、その景色を自らの身体という器を通して映し出していたのです。
フラは、人が自らを飾るためのものではありません。
風の音や波の満ち引き、そして神々の声に耳を澄ませるものです。
それらを受け取り、祈りとして響かせていく営みでもあります。
ヒイアカは、親友ホーポエから受け取った「自然を見つめる眼差し」を、自分を育ててくれた姉への贈り物として静かに捧げました。
指先から風が吹き、波が生まれるとき。
私たちの踊りの中には、かつてホーポエがプナの海辺で見つめていた、大自然への深い愛が息づいています。
次にステップを踏むときは、ご自身がプナの風に揺れるハラの木になったつもりで、そのやわらかな息吹を感じてみてください。

次回は、ペレとヒイアカの神話が教えてくれる「破壊と再生」の物語へ。
姉妹が刻んだ大地の巡りについて紐解いていきます。
Me ke aloha pumehana,
Motoe
