〜神話・歴史・大自然の息吹をめぐる物語〜
第1部 神話編:暗闇から始まる命の記憶
第4回:火と海の記憶〜ペレの愛とナマカオカハイの怒り〜
ALOHA! Ka Hōkūlani HULA STUDIOのMotoeです。
フラ・カヒコ(古典フラ)のステップが大地を力強く打ち鳴らすとき。
そこには赤く燃え上がる火山の息吹と、荒々しい自然を生き抜いたひとりの女神の記憶が静かに呼び覚まされます。
今日からは、フラの歴史において最も深く心を打つ「火の女神ペレと妹ヒイアカ」の神話へと歩みを進めていきましょう。
ハワイ諸島に生きる人々に、最も畏れられ、最も深く愛されている女神Pele(ペレ:情熱を燃え立たせる火の女神)。
なぜ彼女は、この島へとやってきたのでしょうか。
その波乱に満ちた航海の背後には、交わることのない力同士がぶつかり合う、激しい命の物語が息づいていたのです。
【遠い海のかなた、カヒキからの旅立ち】
ペレはもともとハワイの住人ではありませんでした。
彼女の故郷は、Kahiki(カヒキ:はるか海の向こうの神聖な地)と呼ばれる場所です。
ペレがその故郷を離れなければならなかった理由。
それは、海の力を司る女神Namakaokahaʻi(ナマカオカハイ:すべてを包み込み鎮める海の女神)との間に、激しい怒りと悲しみが渦巻いていたためでした。
大地を焼き尽くす炎をまとうペレ。
そして、すべてを冷たく飲み込む海を司るナマカオカハイ。
炎と海という、決してひとつに溶け合うことのないふたつの命が激しくぶつかり合います。
その中でペレは、ナマカオカハイの打ちつける荒波に追われるように、故郷の地を後にしたのです。
【神聖なカヌーと、腕の中の小さな命】
安住の火を灯す場所を求めて、ペレは一族とともにHonuaiākea(ホヌアイアーケア:神聖なカヌー)へ乗り込み、見知らぬ海へと漕ぎ出していきました。
荒れ狂う海原で、彼らの道標となったのは頼もしい兄、Kamohoaliʻi(カモホアリイ:海を導く守護の神)でした。
彼は巨大なサメの姿となり、潮の満ち引きを読みながら一族のカヌーを導いていきます。
その過酷な航海の中、ペレの胸には大切に抱かれていたものがありました。
まだ目覚める前の卵の姿をした末の妹、Hiʻiaka(ヒイアカ:ペレの最愛の末の妹)です。
冷たい波飛沫が打ち付ける中、ペレは自らのあたたかな体温と炎の息吹で、この小さな命をそっと包み込みました。
どれほど激しい嵐の夜も、その手を離すことはありませんでした。
ペレはただひたすらに、その命を守り続けたのです。
【北西から南東へ〜大地を穿つ火の歩み〜】
ハワイ諸島へ辿り着いたペレは、まず最も北西に位置するカウアイ島へ降り立ちます。
そして炎の住処を作るため、Pāoa(パーオア:掘り棒)で大地を穿ちました。
しかし、ナマカオカハイの波はどこまでもペレを追いかけてきます。
掘り当てた火口へ冷たい海水を注ぎ込み、その炎を消し去ってしまったのです。
ペレはカウアイ島を後にしました。
そしてオアフ島、モロカイ島、マウイ島へと移りながら、新たな大地を掘り続けます。
けれど、そのたびに荒れ狂う波が炎を飲み込んでいきました。
マウイ島のハレアカラでナマカオカハイと激しくぶつかり合ったペレは、やがて形ある肉体を離れ、燃え盛る炎そのものの存在になったと語り継がれています。
そして果てしない旅の末に、ペレが辿り着いたのが最も南東に位置する広大なハワイ島でした。
空高くそびえるMauna Loa(マウナ・ロア:長い山)。
そしてKīlauea(キラウエア:噴き出すという意味を持つ火山)。
その頂は、どれほど海が波打ち際を削ろうとも決して水の届かない、揺るぎない安住の地となったのです。
北西の古い島から南東の新しい島へ。
それは、大地が重ねてきた歩みそのものでもありました。
ハワイの人々は、その壮大な記憶を火と海の女神たちの物語として、美しい詠唱(チャント)の中に語り継いできたのです。
【大地を踏み鳴らす、命の記憶】
フラを踊るとき、力強く足を踏み鳴らすその奥には、大地を穿つペレの息吹が息づいています。
そして荒波から逃れながら、小さな命を守り抜いたあたたかな記憶もまた、静かに受け継がれています。
その感覚を、ご自身の足裏でそっと確かめてみてください。

次回は、マウナケアの頂に美しく降る雪の女神ポリアフの物語です。
燃え盛る火と静かな雪。
ふたつの大自然が対峙する、静かな調和の景色をお届けします。
Me ke aloha pumehana,
Motoe
