〜神話・歴史・大自然の息吹をめぐる物語〜
第1部 神話編:暗闇から始まる命の記憶
第1回:暗闇の誕生〜クムリポが語る命の夜明け〜
ALOHA! Ka Hōkūlani HULA STUDIOのMotoeです。
ふと呼吸が静かに落ち着いてくるとき。
その内側には、言葉にならないままの気配が、やわらかく広がっていきます。
フラのステップを踏むとき、私たちはただ美しいリズムに合わせて身体を動かしているだけではありません。
その動きの奥には、古代ハワイの先人たちが見つめ続けてきた、大いなる自然の営みがあります。
そして、その巡りは今も静かに私たちへ続いているのです。
今日から少しずつ、私たちが踊るKahiko(カヒコ:古典フラ)の背景にある「ハワイの神話」の世界を紐解いていきましょう。
第1回目のテーマは、ハワイの創世神話と、フラの動きを導く「クー」と「ヒナ」が持つ深遠な力です。
【クムリポが語る、果てしない暗闇からの誕生】
ハワイには、Kumulipo(クムリポ:創造の詠唱)という、果てしない命の連なりを語る神聖な詠唱が受け継がれています。
原初の世界は、光のないPō(ポー:広大な暗黒の深淵)の中にありました。
そこにはまだ輪郭というものがなく、すべてがひとつのまま静かに在りました。
かたちも名前もまだ生まれる前の命が、境界を持たず、やわらかく重なり合うように満ちている場所。
それがPōでした。
その静けさの中から、やがてAo(アオ:光)が現れてきます。
世界は静かなPōの内側から、ほどけるように、かたちを帯びはじめました。
ひとつに含まれていたものたちも、少しずつ、そのあり方を見せはじめていきます。
やがて命の源であるKāne(カーネ:創造神)、海や風を司るKanaloa(カナロア:海や風の神)、大地の恵みや雨をもたらすLono(ロノ:豊穣の神)。
そして、力強く立ち上がるKū(クー:立ち上がり、存在を支える力の神)。
自然の働きは、次第に神としての姿をあらわしてきます。
海があらわれ、その中には小さな命が生まれました。
そこからさらに広がるように、海の生きもの、陸の植物、鳥、そして人へと、いのちは連なっていきます。
暗闇の中で穏やかに育まれていたものたちは、長い時を経て、光のある世界へと営みを広げていったのです。
【クーとヒナが教えてくれる天地の結びつき】
Pōからあらわれた数ある神々の中でも、私たちダンサーの身体や心に深く関わっているのが、先ほど触れたクーと、Hina(ヒナ:変容と再生を司る女神)という二柱の存在です。
ハワイの教えにおいて、これらは単なる神様の名前ではありません。
大自然を形作る、ふたつの対極にある力の、美しい結びつきでもあるのです。
クーがもたらすのは、「直立して上昇する」という力です。
東から昇る太陽のように、天へ向かって真っ直ぐに突き抜ける命の勢いとなって立ち上がります。
一方のヒナは、「寄り添う、静かな強さ」という力です。
西へ沈む太陽のように大地へ還り、万物をやさしく育む穏やかな深みをもたらします。
【ダンサーの身体に宿るクーとヒナの重なり合い】
Kahikoを踊るとき、ダンサーは自分自身の身体を神聖な器として、この大自然のふたつの力の重なり合いを体現しています。
Hāʻa(ハーア:低い姿勢)で大地に身を委ねる柔らかさはヒナ。その姿勢を支える揺るぎない軸にはクーが宿っています。
しなやかな腰や手の動き。
その優雅さを美しく解き放つためには、土台となる強靭な力との重なりが欠かせません。
ハワイには、この両方の性質を併せ持つ美しさをMāhū(マーフー:両方の性質を併せ持つ中庸の姿)と呼び、尊ぶ教えがあります。
スタジオの鏡の前に立ち、深くHāʻaの姿勢をとった瞬間。
ご自身の身体の中で静かに重なり合う、クーとヒナの息吹にそっと意識を向けてみましょう。
そのふたつの息吹が美しく結びついたとき、あなたのフラはただの動きを超えていきます。
そして、大自然と共鳴する祈りへと静かに変わっていくのでしょう。

次回は、暗闇から生まれた大地に、どのようにして最初の人間が誕生し、自然と結びついていったのか。
タロ芋が教えてくれる「人間と大地の兄弟の絆」について紐解いていきます。
Me ke aloha pumehana,
Motoe
